160年前、痛みのない治療をしたいと願う
一人の歯科医師のひらめきが
世界初の麻酔治療を生みました。
そしていま、その後の麻酔学の研究とその成果が
より痛みの少ない治療を実現しています。
皆さんは、麻酔の歴史は歯科から始まったことをご存じでしょうか?
世界初の全身麻酔として公認されているのは、実は歯科医師による抜歯の治療だったのです。
1844年、注射器も消毒薬もまだない時代に麻酔の歴史は「全身麻酔」から始まります。
アメリカ人の歯科医師ホーレス・ウェルズは、あるとき笑気ガスを吸って騒いでいる旅芸人の一座にでくわしました。笑気ガスを吸った旅芸人がハイになっているのを面白がって眺めるという、たわいもない興行です。そのうち、芸人の一人が向こう脛をひどくぶつけました。相当痛いはずなのに、本人はまったく気づきません。
ウェルズはひらめきました。笑気ガスには麻酔の作用があるのかもしれない。患者さんを抜歯の痛みから解放できるのではないか。
(ホーレス・ウェルズ)
ウェルズはさっそく自分の歯で実験しました。するとまったく痛くありません。素晴らしい効果でした。この一人の歯科医師のひらめきこそ、現代にいたる医学の飛躍的な進歩をささえてきた「麻酔の歴史」の始まりでした。
翌1845年、ボストンのマサチューセッツ総合病院エーテルドーム(医学上の数々の画期的な実験が行われた階段教室)で、ウェルズはこの画期的な全身麻酔の公開治療を行います。
ところがこの実験は失敗に終わりました。実験に協力した患者さんは丈夫な歯を持つ屈強な男性でした。抜歯の際に、力の強い患者さんが刺激で動いてしまったのです。実験を「八百長だ」をバッシングされ、ウェルズはすっかり全身麻酔の失敗者として汚名をきせられてしまいました。しかい、患者さんはやはり抜歯をしたことを全く覚えていなかったのです。ウェルズはいまでは名誉回復されて、彼の公開治療は世界初の全身麻酔として認められています。
その一年後に、エーテルを使った公開治療が行われました。エーテルは笑気ガスよりもはるかに強い全身麻酔薬です。治療を行ったのは同じく歯科医師のウィリアム・モートンでした。彼は賢明にも、病弱な人のできものを取る小さな手術を行い、大成功をおさめます。
(ウィリアム・モートン)
以来160年、こうして歯科医師の手で始まった麻酔治療が、その後あらゆる医学の分野で応用されていることは皆さんもご存じのとおりです。そして「無痛治療」という理想に向かって、歯科の麻酔学も様々な模索と研究を重ね、成果を上げてきました。
次回は麻酔の種類についてご紹介していきたいと思います^^